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 月刊「税理」 連載コラム 2004年5月号
第5回「金融検査マニュアル別冊(中小企業融資編)」について −その3−
 平成16年2月26日に「金融検査マニュアル別冊(中小企業融資編)」の改訂版が発表されました。別冊の内容は、より中小企業の実態に即したものとなるような改訂となったと聞いております。借り手である中小企業にも参考になると思われますので、改訂の内容を教えてください。

<改訂の背景>

 平成14年6月に「金融検査マニュアル別冊(中小企業融資編)」が公表されて以来、金融庁では、その周知徹底を行なってきました。その後、「リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラム」の中で「当該別冊の定着状況等をモニタリングし、その内容が中小企業の実態により即したものとなるよう改訂する。」との内容が盛り込まれました。

 それに対応して、金融庁は平成15年12月22日に改訂(案)を発表し、約1ヶ月の間パブリックコメントを受け付けました。その結果、金融団体、中小企業団体及び中小企業庁等から約240件の意見が寄せられ、それを踏まえた上で若干の修正を加え、平成16年2月26日に正式に改訂版を発表しました。

<改訂の趣旨>

 金融機関は、日常の取引関係の中で蓄積される情報をベースに、債務者のリスクを評価し、リスクテイクする形で金融仲介の機能を果たしています。こうした中で「金融機関と債務者との間で中身のある意思疎通が行われているか」「意思疎通を通じて経営実態の把握や、債務管理の一環として債務者への経営指導等の働きがけが行われているか」といった点がより一層重要になってきました。

 こうした考えの下、今回の改訂では、より積極的に債務者とのかかわり合いを真摯に果たしている、あるいは果たそうとしている金融機関については、結果として検査でも差が出るような内容となっています。

<改訂の内容>

1. 債務者との意思疎通

1) 企業の成長性等について金融機関の評価を尊重
 債務者区分の判断において、企業の技術力、販売力、経営者の資質等やこれらを踏まえた成長性を評価する場合に、企業訪問・経営指導等を通じて収集した情報に基づく当該金融機関の評価を尊重する。
2) 金融機関による中小企業の再生支援の実績を引当率に反映
 要管理先の中小・零細企業のうち、金融機関が企業・事業再生支援を実施し、その実績、データが存在している債務者については、それ以外の債務者と区分してグルーピングし、引当率に格差を設けることを可能とする。

2. 擬似エクイティへの対応

1) 資本的劣後ローンによるデット・デット・スワップ(DDS)
 金融機関が、中小・零細企業向けの要注意先債権(要管理先への債権を含む)を、債務者の経営改善計画の一環として資本的劣後ローンに転換している場合には、債務者区分等の判断において、当該資本的劣後ローンを資本としてみなすことができることとする。

3. 小口・多数の債権の分散効果

1) 検査における「金額抽出基準」を引き上げ(現行2000万円→5000万円)
2) 中小事業者向けの小口定型ローンの取り扱い

4. 運用の改善

1) キャッシュフロー重視の明確化
 中小・零細企業の債務者区分の判断においては、赤字や債務超過といった表面的な現象のみをもって判断することは適当ではなく、キャッシュフローを重視して検証する必要があることを明確化した。
2) 経営者の資質等に関する検証ポイントを追加
 中小・零細企業の信用力や成長性を評価する場合の経営者の資質等に関する検証のポイントとして、過去の約定返済履歴等の取引実績、経営者の経営改善計画に対する取組み姿勢、財務諸表など計算書類の質の向上への取組み状況等を追加した。
3) 法律等に基づき承認された計画等の活用
 中小・零細企業の技術力、販売力等の評価において、法律等に基づき技術力や販売力を勘案して承認された計画(例えば、中小企業経営革新支援法の「経営革新計画」)等を参考として活用する旨明記した。
4) 疎明資料の範囲の明確化
 従来検証のポイントを明確するための疎明資料の範囲を限定的に捉えられていた面があったことから、金融機関が債務者管理や自己査定のために用いる資料等を含むことを明確化した。

5. 事例の大幅な拡充

検証のポイント改訂に併せて、事例を追加・改正し、事例集を16から27に拡充した。
1) 経営改善計画等の進捗状況が計画を下回る場合の取扱い(事例13、14)
 中小・零細企業の経営改善計画の進捗状況が計画を下回る(概ね8割に満たない)場合にも、進捗の状況のみをもって機械的・画一的に判断するのではなく、計画を下回った要因について分析の上、キャッシュフローを含め今後の見通しを検討する事例を追加した。
2) 貸出条件緩和債権の取扱いについて(事例18など)
3) 代表者等からの借入金等の回収意思の確認は不要(事例1)
4) 資本的劣後ローンによるデット・デット・スワップ(事例26)
5) 一時的な外部要因による赤字や債務超過時の判断(事例27)

経営者の資質の判断ポイントとして、「財務諸表など計算書類の質の向上への取組み状況」が明文化されたことは、われわれ職業会計人がその専門家として、財務体質改善などの経営助言活動についても積極的に支援することが要請されているものと感じられます。



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