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 月刊「税理」 連載コラム 2004年8月号
第8回「財務諸表など計算書類の質の向上に向けた取組み」について
 前号で財務体質改善といった観点から、「貸借対照表」のうち、「役員貸付金」あるいは「仮払金」といった科目の早期解消が必要であることが理解できました。これらの他に、どのような点に注意を払っていけばよいのでしょうか?

 本連載第6回(6月号)で解説したとおり、各金融機関が注目している財務諸表は、長年の期間損益計算の結果を毎期少しずつ受けて、それを自己資本として蓄積した内容を表現する「貸借対照表」であり、その会計情報が企業評価の上で重要となってきています。そこから導き出される企業の安全性を表す指標が「自己資本比率」であり、企業の資産は、他人よりも自分のもので賄っていた方が良いわけですから、当然のことながら、高ければ高いほど良いということになります。

 「自己資本比率」を高めるためには、(1)分子(自己資本)を大きくするか、(2)分母(総資産)を小さくするという二つの手段があることは、すでにお伝えした通りです。(1)の方法の具体策としては、毎期の継続的な利益の創出による内部留保の充実か、あるいは増資ですが、これらは簡単にできるものではありません。

 よって、(2)の分母を小さくする方法が重要になってきます。結果として、「貸借対照表」の総資産(本)の「圧縮」を行うことが財務体質改善につながってくるのです。人で言うところのダイエット作戦といったところでしょうか? この作戦には、食事を摂らないでウエイトダウンということではなく、キチンとドクターに監視してもらいながら、合理的にスリムになっていく必要があります。そのドクターが我々、職業会計人ということです。先生と呼ばれる人のところには、いろいろな病を持った人が集まるといいますが、職業会計人は、財務体質改善のドクターとしても、力を発揮しなければいけませんね。

 ダイエット作戦の1つ目の方法として、定期預金と借入金が同一の金融機関で行われている場合、すなわち「拘束性預金」をもって、当該借入金を返済することで、「貸借対照表」の圧縮が図られることは既にお伝えしたとおりです。

 2つ目に考えなければならないのは、「在庫」の問題です。これについては、財務体質改善と表裏一体にある「資金」の問題にも関係してきます。「在庫」とは、企業における期末時点での未販売の商品などを言いますが、これが増加した場合は、すなわち期末資産の増加となり、その資金手当ては、他人資本によることになります。これは貸借対照表の構造から考えても、自己資本をすぐに増加させることは難しいので、他人資本によらなければならないということは、明らかですね。

 ところで、在庫の問題に関して、「売上原価」との関係を見ていきたいと思います。その事業年度で仕入れた商品などが、全て売れていれば、その仕入金額が売上原価となります。しかしながら通常は、仕入れた商品などの一部が売れ残ってしまうものです。そのため、総仕入高から事業年度終了の日の在庫をマイナスして、売上原価を計算する必要があります。よって、当期の売上高に対応する原価の計算プロセスは、初めに、前期から繰り越されてきた期首商品などの在庫に当期の仕入高を加えます。この合計額は、当期に販売可能な商品などをあらわします。この販売可能商品から期末の売れ残りの在庫を差し引くことにより、販売済みの商品などの原価を導くことが出来るのです。

当期の売上原価 = 期首たな卸高 + 当期仕入高 − 期末たな卸高

 たとえば、実際の期末在庫に架空分を加えた「在庫の水増し」などを行うと、売上原価が小さくなるため、その結果利益が出たような形になります。いわゆる、赤字と予想される企業がこの手法により欠損を回避する行為の可能性があります。これを「粉飾決算」といいます。赤字の企業が利益を出したように決算を行う「粉飾決算」は、もともと金融機関などの第三者から決算書の提出を求められているなどの理由により、やむを得ず黒字の決算を行わなければならない時に作成されるはずです。一旦、このような決算書を作成すると、なかなか本来の財政状態に戻すことは出来ないし、作成された決算書が本当の企業の財政状態を表さないことからも、絶対に行ってはいけません。これを防止する意味でも、最低でも月に1度の実地たな卸を行い、正しい売上原価を算定する必要があると思います。さらには、帳簿たな卸との比較を行い、その乖離が大きいときには、内部牽制制度の改善に着手してはいかがでしょう。

 また、黒字の企業が在庫の過小評価を行い、売上原価を増加させる行為は、結果として利益を減少させます。これを「逆粉飾決算」といいます。「逆粉飾決算」は、売上の除外、あるいは経費の水増しによって行われますが、明らかに脱税行為です。また、税引き後の利益が剰余金として貸借対照表に計上され、自己資本比率のアップの要因となるはずなのに、利益を過少申告することで、その比率の上昇を自ら抑制しているわけですから、実にもったいない話ですね。

企業の「貸借対照表」の圧縮を「在庫」というテーマから考えると、期末における過剰在庫、あるいは不良在庫の処理が重要になってきます。これは、「資金」の問題とも密接に関係してくるので注意深く見る必要があると思います。



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