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 月刊「税理」 連載コラム 2005年4月号
第4回 金融機関は決算書のココ見る
 過去の連載を読んで、金融機関から融資を受けている場合、毎期の決算書などの提出を求められる理由は理解することができました。それでは、金融機関は決算書等の提出書類の、どこをどのように見ているのでしょうか?

 金融機関の「信用格付処理事務マニュアル」などを見ると、決算日以後、原則3ヶ月以内を目途に決算書を徴求することとされています。例えば3月決算の会社に対しては、6月末までに、受領しなければいけないルールですが、法人の税務申告期限が決算日後2ヶ月以内ですから、実質的に決算を経て約1ヶ月の間に提出することが求められます。私の事務所では、決算書を決算日後45日を目標に作成し、ただちに顧問先が税務署の収受印(電子申告の場合は完了受信通知を添付)のある決算書・申告書・内訳書などを金融機関に持参するようにしています。金融機関のルールを知って、金融機関が徴求をストレスと感じないようにすることも大切なのではないでしょうか。

 最近は、決算書のほかに、税務申告書や科目内訳書の提出も要求されることが多くなっていると思いますが、上記の事務マニュアルに明記されていることなので、抵抗せずに提出されることをお勧めします。(金融マンは、「長年の取引のある正常先に対して、これらの書類の提出要請をなかなか切り出せない」と言っておりました。)

 私の関与先は、社長様あるいは経営幹部の方が金融機関に持参した際に、決算書や予算組みをした資料を基に、自分の言葉で会社の決算内容についてお話しいただいています。最初のうちは、自分の会社の良い点しかお話しにならなかったのですが、何年かすると逆に問題点を列挙し、その改善策をお話しされるようになっています。金融機関に決算書を持参することが契機となって、自社の数値についてさらに関心を持ち、会計数値が経営意思決定のツールであることを確認し、経営が好転した企業を何社も見ております。

 話を元に戻しましょう。金融機関は、徴求した決算書・申告書をもとに財務分析を実施し、債務者の財務内容を把握し、定量評価を行います。また、「決算事項チェック表」などを用いて、貸借対照表・損益計算書の各科目について、要点を確認しコメントを行います。これらは、企業の実態把握のためには、欠かせない作業だと思われます。

 金融機関による具体的なチェック事項は次のようなものです。

<< チェック事項 >>

  1. 勘定科目全般
    • 前年対比で勘定科目の大幅な増減要因を把握しています。通常は、「比率」で検討することが一般的ですが、科目によっては「絶対値」で判断することもあります。
       
  2. 資産勘定
    • 現金預金(月商との比較、支払手形との関連性、拘束性定期預金の有無)
    • 売上債権(売掛金・受取手形などの増減、月商・回収期間との関連性、仕入債務とのバランス、長期化・回収不能な不良債権の有無)
    • 在庫(回転期間、月商との比較、不良在庫の有無)
    • 貸付金(特に役員等に対して固定化しているもの)
    • その他の流動資産(仮払金・未収入金などを調査し、換金性に乏しい資産)
    • 有価証券の評価損(市場性ある有価証券の時価調査、関連会社の場合は、実態)
    • 建物・機械(過大投資の是非、減価償却不足など)
    • 土地(含み益、含み損)
    • 繰延資産(未償却の確認)
    • その他(修正を要する資産の補正) 
       
  3. 負債勘定
    • 仕入債務(買掛金・支払手形などの増減、売上・仕入・在庫との関連性・妥当性、営業外支払手形の有無、融通手形の有無)
    • 役員借入金(増減と要因)
    • 割引手形・裏書譲渡手形(その他の保証債務)
    • その他(修正を必要とする負債の補正) 
       
  4. 損益勘定
    • 売上高(売上総利益率、増減の理由、製品・商品、販売先)
    • 仕入高(売上との相関性、価格、仕入先)
    • 製造原価(材料費、労務費、外注費、経費の増減、減価償却費)
    • 販売費及び一般管理費(人件費、交際費、減価償却費)
    • 営業外損益(多額なものについては詳細確認、支払利息と借入金の関連性)
    • 特別損益(多額なものについては詳細確認、内容確認)
    • 減価償却の未済(当期分の償却限度額・当期償却額・償却不足額を把握)
    • 損益分岐点の把握

 これらのポイントを基に、修正財務諸表を作成し、定量的評価を行うことで、信用格付の資料として使用することになります。


金融機関では、修正財務諸表の数値を基に、「与信格付シート」を作成します。安全性・収益性・成長性などの経営分析の数値を基に財務評価が行われ、与信格付けの定量的評価が決定されます。



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